bloco

社会の有るがままを、
世界の有るがままを。

Story

息子よ

 それだけだ。雑踏に掠れる町のはずれで、子供をつれた母親が道を譲ってくれた。それだけのことだ。人の好意がまさか自分に向けられる、何十年も忘れていたこの感じが沁みた。その笑顔に眩んだ。ただ怖気づいた俺のぶっきら棒な態度のせいで、母親は逃げるように子供の手を引いて行っちまった。 路地にぽつんと照らされた自販機のまえで、手の平の小銭を数える。機械油が皺の溝に沁みこんだ手に、煙草に足りる銭がころがる。「月がきれいや」ひと気ない安堵とともに吐いた独り言は、アパートの味気ない鉄階段の音と縺れあいながら消えて

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「ぎんぎらぎんのおっちゃん」

ぎんぎらぎんのおっちゃん ②

 あぜ道を走った。私は箱を大切に抱いて、二人のあとを追う。まだ落ち込んだ様子のおっちゃんに、私たちは声をかけた。すると突然、おっちゃんが猛スピードで走りだした。 「あんな車より、速いでー!」  手と足をタイヤみたいに回して走るおっちゃんを、私たちはけらけら笑って追いかける。  それからいくらもしないうちに、おっちゃんが遅れはじめた。私はまだ走れそうなのに、おっちゃんが力尽きて、しゃがみ込んでしまった。ぜーぜーと息を切らしている。仕方なく立ち止まった。すると私たちの目の前に、来た道の空がずっと広が

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「ぎんぎらぎんのおっちゃん」

ぎんぎらぎんのおっちゃん ①

 遠いとおい、西のほうの町から、ぎんぎらぎんのおっちゃんがやって来た。大きな外国の車が黒い煙りをはきながら、私とお兄ちゃんの前で、ぶるるんっと止まった。 「けったいな町(まっち)やなー」  左のドアをどんっと開けて、おっちゃんが降りてきた。黒いサングラスをかけ、てかてかに光るクシの通った髪に、立てじまの白いスーツを着ている。おっちゃんは目をまるくした私のことを、まじまじと覗き込んできた。 「ほんま姉貴の娘(こ)や。そっくりやないかー」  そういって、おっちゃんは笑った。お兄ちゃんは怖がる私に気づ

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「縁の下のブー」

「縁の下のブー」⑦

 夜の夕立は、僕たちや町中をずぶ濡れにしたあと、ばかみたいに降りだしたのと同じように、うそみたいに止んだ。僕たちの、ばかみたいな泣き声は、雨音にならって、うそみたいに止んでいった。縁側からの水滴が、下の水溜りに落ちた。その音と同時に、ひくっと僕は痙攣した。  雲が晴れたみたいだ。ノブオやタツヤや、ブタ夫や子猫たちが見えた。服は濡れて、寒かった。子猫たちを、僕の服の濡れていないところを見つけて、拭いてやった。  雨が止めば、また静かな境内だった。風の音だけが聞こえる。それと合わせて、何か騒々しいよ

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「帰れなサンタの夜明けまえ」

帰れなサンタの夜明けまえ

「帰れなサンタの夜明けまえ」    お兄ちゃんは分解が大好きだったんだよ。ラジオとか時計とか、何でも分解しちゃうの。それをまた組み立てると、動かなくなってしまう物もあったけど、時計なんか音をたてて動きだしたから、「お兄ちゃん、すごーい!」って、びっくりして拍手したんだ。  そしてお兄ちゃんは宝物だった空気銃を、真剣な顔して分解した。はずした部品を順番に並べて、ぜんぶバラバラにすると、それを組み立て直したの。でも動かなかった。引き金をひいても弾がでなくて。 「お兄ちゃん、これ」  私が見

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「オクターブの世界」

オクターブの世界 ⑥

 パパは仕事から帰ると、ママにかけよって抱きしめた。  ママは恥ずかしそうに、苦笑いするのが見えた。 「よかったー、ほんとによかった。ママ、見ておくれ。おれが、お払いをしてもらったんだよ、ほら。しかし、効き目あるもんだなあ」  ママをコップの前に連れていって、お札を見せている。  説明する気になれない私は、苦笑いした。  ママは「お料理、したかった」っていって、にこにこしながら、ハンバーグを作った。タっくんと私で料理をはこんで、四人で食べた。 「おいしい。ママの料理、サイコー!」  私が手をつき

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「縁の下のブー」

「縁の下のブー」⑥

 夏休みまで一週間をきった日、ということはノブオと別れるまで一週間をきった日、梅雨が明けた。夏の始まりの強い日差しが校庭に照りつけて、気温をぐんぐんと上げてゆく。僕たちは夏休みの予感を感じて、いつもよりすっと早く一日が過ぎた。  電話が鳴ったのは、夜の八時近かった。「ノブオくんが、そちらのお宅にお邪魔していませんか?」という電話だった。話を聞くと、ノブオが行方不明になっているという。さらに聞けば、学校の飼育小屋の戸が開いていて、中にいた豚もいなくなっているということだった。  学校から「手分けを

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「みたことのない朝」

「みたことのない朝」⑥

 いつもと違って運転するのは、お母さん。助手席には、お父さんがすわっている。そして突然、大きな声を上げた。 「あ、保険証忘れた!」 「入れておきましたよ、小さいバックのなか」  お母さんは余裕で答える。  まだ裸のイチョウ並木を通って、高速道路をくぐると、左側に僕の学校が見えてくる。 「四月には、もう六年生だな」 「うん」  お父さんは考えごとをしているみたいに、学校を見ていた。 「……小学生のときに、お父さんイジメられていて、半年くらい学校に行けなくなったことがあったんだ。だから裕明には強くな

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「オクターブの世界」

オクターブの世界 ⑤

    四日目    今日は土曜日だけど、パパは仕事が半日あるといって出かけた。 私たちは少しこげたトーストとハムエッグ、それにサニーレタスのサラダを食べた。食べながらタっくんは新幹線メガネを不思議そうに見ているので、私は夜中に見た光るヒモの話をした。タっくんはただ、静かにうなずきながら聞いている。 「お姉さん、もう一度、挑戦してみます」  長机をキレイにして、タっくんはスライドガラスをゆっくりと置いた。そして深呼吸をすると、渦巻き新幹線メガネをかけた。 スライドガラスの水に、渦巻くレ

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「縁の下のブー」

「縁の下のブー」⑤

 日がたつにつれて、ノブオの生気が無くなっていった。カメの水替えのときにも、ノブオが手を滑らせて水槽を引っくり返してしまった。教室は水浸しで、カメは慌ててあちこちに逃げていく。この時もノブオは、ただ呆然と立ち尽くしていた。  ルリ子さんと会った日以来、タツヤがノブオを虐めることが全くなくなった。それでもノブオにちょっかいを出す奴は、何人かいた。僕は勇気をだして注意したいと毎日思うのに、出来なかった。  七月も中旬になるころ、河合先生からお知らせがあった。 「ここにきて突然のことだけど、ノブオくん

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変わってゆく社会に、足りないものを思いついたら、まずは作ってみる。
Webサイト制作やランディングページ制作。動画制作、ドローン空撮などなど。未来に関することの全般がお仕事です。

「 IT×行政書士 」をキャッチフレーズに、地方自治体の地域活性化を ITの面からサポート応援していきます。
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