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社会の有るがままを、
世界の有るがままを。

「縁の下のブー」①

  「縁の下のぶーちゃん」

 

 僕が一年生だった夏、ノブオくんは転校してきた。先生に並んで紹介されたあと、ノブオくんは黄色い帽子をとると、寝ぐせのついた髪がぴんと立った。

 その日の授業が終わると、僕は近所に住むタツヤくんと一緒に、教室をでて帰ろうとするノブオくんのところへ走っていった。

「なあなあ、テレビで何が好き?」

 タツヤくんが少し息を切らせながら聞いた。でも僕たちは好きなテレビ番組について、興味があった訳じゃない。

「んー、ドラえもんの好いとー」

 僕はタツヤくんと顔を見合わせて、くすくす笑った。ノブオくんの話す、博多弁に興味があったのだ。

「おまやー、なして笑っちょる?」

 きょとんとした顔でノブオくんがいったので、僕たちは声をだして笑ってしまった。訳の分からない顔で立ってたノブオくんは、ばか笑いの僕たちをおいて歩きだした。

 そのうしろ姿に気づくと、あわててタツヤくんと後を追った。

「ごめん、ごめん。ねー、校庭の動物見に行こうよ。面白いよ」

 僕はノブオくんの前に回り込んでいった。ノブオくんは口元で少し笑って、うなづいた。

 黄色い帽子をかぶった僕たち三人は、校舎の横にある飼育小屋へと向かった。

「こっち、こっち」

小屋が見えてくると手招きしながら、僕とタツヤくんは走りだす。それに釣られるようにして、ノブオくんも駆け足になった。

 小屋の鉄柵に張りつくと、僕とタツヤくんは振り返っていった。

「ほら、見てみて!」

 ノブオくんもかけよると、いっしょになって鉄柵へ張りついた。飼育小屋の中には小さな豚の赤ちゃんがいて、突然やってきた僕たちを見つめてる。

「いやー、たまげた。どーして愛らしかもんなー」

 ノブオくんが目を真ん丸くしていった。

「少し前に寄付されて、この小屋にやってきたんだよ。ノブオくんと同じ転校生だね」

 ノブオくんは僕の言葉なんて聞こえてないみたいに、子豚を見つめている。白くて短い毛に、うすいピンクの鼻。子豚は僕たちの間を行ったり来たり、ぴょこぴょこ歩きまわってる。

 タツヤくんがふざけて、小石をひろって投げつけた。それは歩きまわる子豚の横に落ちたので、もう一度、小石を拾って投げつける。

「なんば、こつけるとや。可哀想やけん、せんでちゃくれんね」

 ノブオくんが、きっぱりといった。その言葉に、タツヤくんはぴたりと動きを止めた。ちょうどそのとき、子豚もぴたりと止まって、いきおいよく「ブー」と鳴いた。その子豚の動作が、まるでノブオくんの言葉を分かっているかのようだったので、僕たちは一斉に笑った。

 はじまったばかりの、夏の新しい光のなか、小っちゃな顔を三つよせあって、僕たちはけらけら、けらけら笑った。

 あれから何年も経って、体もそれぞれ大きくなって、僕たちが五年生になったとき、また三人は同じクラスになった。

 クラス全員の係活動を何にするか、決めなければならない。担任の河合先生が長い髪を指で耳にかけ、優しい口調で進行する。希望のある人はそれぞれ好きな係につき、残った人はくじ引きで係を決めることになった。

 くじ引きの結果、僕は生き物係になった。クラスの女の子で気になっていた、浅香さんと一緒の係だった。嬉しいのと緊張とで、体が浮き上がるような変な感じがした。そして、ノブオとも一緒だった。ノブオは生き物係を、最初から希望していた。

 教室の窓にそった棚の上に、大きな水槽が置いてある。その中にはミドリガメが三匹飼われていて、カメが日光浴できるような大きな石と水が張ってある。

 水槽の水を替えるときには、浅香さんとノブオと僕の、三人がかりで持ち上げなければ運べない。この水替えが嫌だった。誰かに見られたくなかった。ノブオと一緒にいて、僕も弱い者の仲間みたいに思われるのは、すごく嫌だった。

水道のある廊下まで運び、僕が大きな石を水槽から出した。そして一匹ずつ甲羅を持って、別の入れ物にカメを移しておく。甲羅を持つと、その指を外そうとカメは必死になって、手足を使って指をどけようとしてくる。指にカメの爪が当たって、痛いのと気持ち悪いのとで、僕と浅香さんはカメを落としそうになりながら、やっと移した。

そして僕とノブオで水槽の水をまける。カメのいた水槽の水には雑菌が多いせいで、触れた手はひりひりと痛がゆい。浅香さんと僕で水槽を洗っている間に、ノブオはカメの甲羅を古い歯ブラシで掃除した。一匹ずつ手にとって掃除しながら、合間に甲羅の感触を確かめるように指でさすっている。そんな時のノブオは、満足そうな笑顔だ。

大きくなるにつれ、ノブオはほとんど喋らなくなった。きっかけは方言のことを気にしていたからなのかもしれない。背も小さいし、友達もいないし。そんな訳で、ノブオはよくからかわれたりした。転校してきた一年生の頃とは、すっかり変わってしまった。変わらないのは動物好きなところと、寝ぐせだけだ。

きれいになった水槽に、くみ置いていた水を入れる。そして石を入れ、カメを中に放した。臆病なカメたちは、身を隠そうとして必死に泳いでいく。

「あははっ、可愛いね。気持ちよさそー」

 浅香さんが水槽をのぞき込んだ。僕とノブオも、その横からのぞき込む。

 きらきらと真新しい水のなかを、石の隙間に隠れようと泳ぐので、懸命に水をかく後ろ足と三つのしっぽが見えた。

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