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社会の有るがままを、
世界の有るがままを。

「縁の下のブー」③

 河合先生は黒板に「共生」と書いて、振り返った。白いブラウスときれいな紺のスカートが、髪の長い先生に似合っている。

「キョウセイ、と読みます。どういうことかというと、違った種類のものと同じ場所で共に生きる、という意味です。私たちに置き換えて考えてみると、この町にも外国から来た人が沢山住んでいます。いろいろな国から日本にやって来て、この町に住んでいる。言葉も、食事の仕方も、考え方も違う人たちと、どうしたらお互い幸せに、上手く生活していけるのか? もっと身近なことを考えてみると、この教室の友達同士、それぞれ性格も違うし、育った環境も、教わってきたことも、みんな少しずつ違っている。そんな違う友達同士が、どうしたら上手く、みんな楽しく生活していけるのか? どんなことに気をつければいいのか? どうかな、みんな。いいアイディアある?」

 河合先生が問いかけると、みんな一斉に手を上げた。そして先生は次々と、生徒を指していった。指されると、その場に立って自分の考えをいっていく。いろいろな意見がでた。「ゆずり合う」、「ルールを守る」、「相手を思いやる」、「仲良くなるために、いっぱい話しをする」、「挨拶をする」。

「次は、ハラダくん」と、先生が僕を指した。

「握手をする」、そう僕は答えた。

次に指された男の子が「いいたいことを言い合う」というと、笑いが起こった。授業の前に、その子は別の男の子と口げんかをしていたからだ。

さらに意見がだされ、「許しあう」、「相手に興味を持つ」、「相手を好きになる」、「こころから受け入れる」、「近づかない」、「避ける」、「かかわらない」、「いないものと思う」。マイナスの意見がでると、次々と同じような意見がつづいていく。

「友達と違うとは思いません」

 男の子の一人が、立ち上がっていった。すると先生は少し考えてから、話し始めた。

「そうだよね。先生も小学生の頃には、友達と違うって感じなかったときがあったと思う。それでいて、まるで違うって思うときもあったりして。でもいま先生は大人だから、相手が自分と違うって気づかずに、自分の考えを押しつけたくないなって思ってる。自分のやり方や考え方を、相手に当てはめる前に、自分との違いについて気づきたい」

 先生は一度息をついて、髪を指で耳にかけた。

「共生っていうことでいうと、動物と人との共生ってあるよね。みんなの周りにもペットや、野生の動物が一緒に暮らしている。どうだろう。ノブオくんは、生き物係や飼育委員もしていて、いつも動物の世話をしてくれているよね。ノブオくん。動物との共生について、何か考えがある?」

 先生の言葉を聞いていなかったのか、ノブオは座ったまま下を向いている。

「どうかな? ないかな」

 先生がもう一度いっても、ノブオは座ったままでいた。がやがやしだした教室の雰囲気を感じて、先生は小さくノブオに笑いかけてから視線を外し、話題を変えようと口を開きかけた。それと同時に、ゆっくりとノブオが立ち上がった。

「……いっしょにいる」

 ノブオのいった言葉が聞こえなかったみたいで、河合先生は優しく聞き返した。

「いっしょにいる」と、ノブオはもう一度いった。今度ははっきりと聞こえたようで、先生は大きくうなずいた。

「そうか、そうだよね。一緒にいるんだね。一緒にいれば、いいんだね」

 先生は嬉しそうに、なにか思いあたったみたいに、何度もうなずいていた。

 梅雨に入って、ここ何日も雨がつづいている。窓のそとは厚い雲が空一面に広がって、薄暗く、肌寒い日だった。窓際に置いてある水槽のところに立ち、ノブオはカメに餌をやっている。浅香さんと僕とノブオの、生き物係三人で、毎日交代で餌やりをすることになっていたのだけれど、いつの間にか、ノブオが毎日するようになっていた。

 窓際に立つノブオの頭に当たった物が、そのまま水槽の中に落ちた。ノブオは背を向けたまま、いつもみたいに反応がない。タツヤは、もう一度ノートを破って丸め、ノブオ目がけて投げつけた。周りの男の子も、ふざけて投げつける。見慣れた光景だった。もう何週間も続いていた。いつもノブオは動かずに、それが過ぎ去るのを、じっと待っている。

 体や頭に当たっているのに、ノブオは黙ったまま、水槽に落ちた紙を拾い上げていた。

投げた紙の玉が当たると声を上げてはしゃぎ、みんな楽しそうだった。僕は急いで取り出したノートを、破って丸めた。それをノブオに向けて投げつける。おしくもそれて、水槽の横に落ちた。

 僕は笑いながら舌打ちをして、もう一度破って丸めたものを投げつけた。それは真っ直ぐに飛んでいき、ノブオの頭に当たって落ちた。当たったのと同時に手を上げて、僕はガッツポーズした。

 帰りの会が終わって、荷物をまとめるのに手間取っていると、友達はもう教室にいなかった。外は雨だから、放課後は誰の家で遊ぶのか気になった。僕は小走りに教室をでて、廊下を少しいったところで、突然、怒鳴り声が響いたので立ち止まった。

「教室で大きな声をだすんじゃない!」

 いちばん端にある、飯塚先生の教室からだった。その声は、廊下中に響き渡っていた。気にしないで行こうとしたとき、浅香さんが僕の横で立ち止まった。

「ハラダくんが、あんな事する人だって、思ってなかった」

 それだけいうと、浅香さんは歩いていった。

 

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