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社会の有るがままを、
世界の有るがままを。

「縁の下のブー」⑤

 日がたつにつれて、ノブオの生気が無くなっていった。カメの水替えのときにも、ノブオが手を滑らせて水槽を引っくり返してしまった。教室は水浸しで、カメは慌ててあちこちに逃げていく。この時もノブオは、ただ呆然と立ち尽くしていた。

 ルリ子さんと会った日以来、タツヤがノブオを虐めることが全くなくなった。それでもノブオにちょっかいを出す奴は、何人かいた。僕は勇気をだして注意したいと毎日思うのに、出来なかった。

 七月も中旬になるころ、河合先生からお知らせがあった。

「ここにきて突然のことだけど、ノブオくんは今月限りで、夏休み明けには新しい学校に転校することになりました。さみしいことだけれど、最後まで楽しい思い出を沢山つくってください」

 先生は、教室をゆっくり見渡した。

「それから、ノブオくんに謝ることがある人は、言葉を考えておいて、しっかり、ノブオくんに伝えてください」

 やっぱり先生は知っていたんだ。そう思った。ノブオやタツヤや、何人かの男の子たちは、それぞれ一人ずつ、先生と話しているのを見かけたことがある。とくにノブオは、先生と何度も話しをしていた。陰で虐めをしていても、やっぱり先生には分かってしまうんだ。

 そして僕も、謝らなければならない一人だった。

 

 夕方、教室にいる人も少なくなった放課後。ノブオが水槽の前に立っていた。餌をやっているのかと思い、近づいていった。ノブオと、小さいころの話しがしたかった。久しぶりに雲間からでた夕日が、ノブオや、机や、教室の壁をオレンジ色に塗りかえた。

 声をかけようと思って後ろに立ったとき、何をしているのか分からなかった。それがよく理解できなくて、もう一度のぞき込んでみた。

 ノブオはえんぴつで、水の中にいるカメの甲羅を裏返しにして、押さえつけていた。そして石に登ってくるカメを落としては、水の中で裏返して、押さえつけた。必死に起き上がろうとするカメを、押さえつけている。

「:ノブオ」

 僕が思わず声をだしてしまうと、ノブオは驚いてふり返り、そのまま走っていった。しばらく僕は、体に力が入らなかった。

 信じられなかった。動物が好きなあのノブオがだなんて、信じられなかった。

 家に帰ると、滝が二度吠えて「おかえり」をいう。僕は座り込んであぐらをかいて、どうでもいい気分で滝に抱きつき、顔をべろべろになめまくられた。

 一人で夕飯を食べて、テレビを見たあと厨房に行ってみた。店のシャッターを閉め、お母さんはレジの前にいた。僕は、自分の中のもやもやした、いろいろな事を話したかった。タツヤのこと。ノブオのこと。ルリ子さんと会った夜のこと。神社のこと。ノブオが虐められていたこと。僕も虐めたこと。そして、今日のノブオとカメのこと。

 お父さんは包丁をもって、仕事をしながら聞いていた。お母さんはレジ閉めを中断して、僕の話をじっと聞いている。もやもやとした全てを話した。そんな僕を、お母さんは静かに見ている。そして話しだした。

「楽しかったり得したと思っても、そのあと嫌な気持ちがしたら、それは間違ってることなんだろうと、お母さん思うよ。すごいよね、心って。そうやって、いつでも教えてくれるんだもんね」

 お母さんは少し僕を見たあと、レジに向かった。

 

 休み時間の教室は、一人の生徒が職員室で聞いたという話で持ちきりだった。飯塚先生の大きな声が、職員室から聞こえてきたという。

 飼育小屋で飼う動物は、豚でないほうがいいだろう。大きくて危険だし、不衛生だ。どうせ飼うならウサギとか、小学校らしい、見栄えのいい動物にしよう。あの豚は処分するしかないだろうな。

 というような話らしい。豚ならウサギのほうがいいとか、ウサギよりリスがいいとか、ブタ夫の小さいときがいいとか、みんな言いたいことをいっていた。

でも学校にいられなくなった場合、ブタ夫は処分されるのだという。処分って、どうになるんだろう。教室で話題になると、物知りの男の子が説明を始める。

大人が処分というとき、それは殺すことなんだと、そのとき知った。

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