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社会の有るがままを、
世界の有るがままを。

「縁の下のブー」⑦

 夜の夕立は、僕たちや町中をずぶ濡れにしたあと、ばかみたいに降りだしたのと同じように、うそみたいに止んだ。僕たちの、ばかみたいな泣き声は、雨音にならって、うそみたいに止んでいった。縁側からの水滴が、下の水溜りに落ちた。その音と同時に、ひくっと僕は痙攣した。

 雲が晴れたみたいだ。ノブオやタツヤや、ブタ夫や子猫たちが見えた。服は濡れて、寒かった。子猫たちを、僕の服の濡れていないところを見つけて、拭いてやった。

 雨が止めば、また静かな境内だった。風の音だけが聞こえる。それと合わせて、何か騒々しいような音が混じってきている。その騒々しさは、大きくなってくる。間違いない。懐かしい、お父さんの声がする。それはまだ遠いけど、少しずつ近づいてきている。

「そろそろ観念か」

 タツヤがいうと、ノブオは首をふってブタ夫を抱いた。

「俺たちが戻るからって、ブタ夫のことをあきらめる訳じゃない」

 タツヤの言葉に、僕も思っていることをいった。

「そうだよ。ブタ夫のことは絶対に処分させない。みんなで守ろうよ」

 そういうと、ノブオは顔を上げてうなずいた。

「うん、守ろう」

 子猫たちの箱を、濡れないように一段上がっている所に置き、僕たちは縁の下をでた。三人とも立ち上がったところで、僕は手をだした。神社をでる前に、二人の前へ手をだした。タツヤとノブオは気づいたみたいで、それぞれ手をだす。僕は二人の手を取って、一つに固くにぎった。

 僕たちが鳥居をくぐると、やってきた大人たちが気づいた。

「いたぞー! ここだ、いたぞー!」

 一番にお父さんの声が聞こえて、次々と大人が駆け寄ってきた。僕はあぜ道を走って、お父さんに抱きついた。その横を派手な服の女性が走っていった。そしてタツヤのまえで膝をついた。ルリ子さんだった。白い化粧に幾筋もつけて、ルリ子さんは泣いている。

 連絡が入ったようで、近くを捜索していた一団が合流した。その中にノブオの両親がいて、ノブオのところへ駆けていった。合流した中に、お母さんもいた。怒られることもなく、お母さんは静かに僕を抱いた。

 豚を学校に運ばなければならないという話になって、家の車があるからと、お父さんが店のトラックを持ってくることになった。

 小さなトラックを神社へつづく農道につけ、大人数人掛りでブタ夫をトラックの荷台に乗せた。暴れないように、犬用のケージに入れた。学校の方にも先生が数人いるということで、お父さん一人で行くことになった。

 僕がノブオの肩に手をかけると、タツヤもうなずいて見せた。

 お父さんがエンジンをかけた。トラックの白い箱の荷台には、「肉のハラダ」と大きく赤文字で書かれている。沢山の大人や僕ら三人が見守るなか、ブタ夫をのせたトラックは、とことこ走りだした。

 

 そわそわして待っていた。僕たちは落ち着かずに、立ったり座ったり、戸をあけて廊下をのぞく男の子もいた。

 僕たちはブタ夫の処分を絶対反対するために、学校中の生徒の署名を、たった一日で集めた。ノブオとタツヤと僕は、クラスのみんなに、ブタ夫を死なせたくない、処分は絶対反対!と訴えてつづけた。やがてクラスのみんなも同じ気持ちになって、一人が「全生徒の署名を集めよう!」といって、盛り上がっていった。一人ひとり何年何組を担当するかを決めて、それぞれが担当のクラスに行き、一人ずつに説明して、目の前で名前を書いてもらった。

 そうして集めた署名は、全生徒の八割にも上った。その署名と僕たちの思いを、河合先生に託したのだ。そしてその決定が今日、たったいま下される予定になっていた。ブタ夫をこのまま学校で飼うか、処分されるかの決定だ。明後日には、ノブオが転校してしまう。

 先生が帰ってくるまで自主勉強をして待つはずなのに、誰一人やっていない。廊下を歩いてくる先生の足音だけに、きき耳を立てている。

廊下に近い生徒が「来た!」というと、みんな慌てて席に着いた。

 河合先生が教室に入ってきたときには、生徒たちは水を打ったように静かだった。先生は教壇まで歩き、ゆっくりと生徒に向き直る。僕はいまにも張り裂けそうな、ぱんぱんの水風船だった。先生の言葉だけを待っていた。

 教室を見渡していた先生は、静かに両手を上げて、顔の前で「○」をつくった。

「やったー!」

 教室が歓声に包まれた。僕は叫んだ。ノブオが両手を上げて喜んでいる。タツヤも両手を上げて立ちあがり、声を張り上げた。

 先生は黙ったまま両手を広げて大きく掲げ、ゆっくりと下ろしていく。先生が手を下ろし終わると、まるでマジックみたいに、教室が再び静まった。

 そして河合先生は、ひとつの大きな戦いをくぐり抜けてきたような表情で、穏やかに、誇らしげに、僕たちに語った。

 

 翌日には授業の時間を使って、ミニ豚に関する飼育の授業をした。町でミニ豚を飼育した経験のある人に来てもらい、いままで知らなかった事をいろいろ教わった。

 これは河合先生の提案で、学校でミニ豚を飼育するのにあたり、飼育経験のある人に毎月一回のペースで講習してもらうことが決まった。でも今日の急な授業は、多分あした転校するノブオのために、先生が手配してくれたのだろうと思う。ノブオは目を輝かせて、瞬きをしてないんじゃないかと思うほど熱心に話を聞いていた。

 

 そして奇跡みたいなことが、もう一つ起こった。それは帰りの会の少し前に、連絡があった。ノブオの転校が中止になったのだ。

 ノブオのお父さんとお母さんは、夫婦で相談して決めた転勤だったけれど、今回の騒ぎのあと、ノブオがぼそりといった「この町で暮らしたい」という言葉で、考えを変えたということだった。そしてノブオのお父さんは、この町で仕事を見つけることにしたという連絡が学校に入った。

 ノブオはそれを帰りの会で初めて聞いて、あまりに驚いたのと、嬉しいのとで、ほんとに偶然に、ブタ夫みたいな音が鼻からでた。

 

                                       おわり

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