そしてそれは、友達の家へ遊びに行く途中のことだった。
救急車のサイレンが鳴り止んだので、僕は通りを見た。
会社のビルがならぶ大きな通りの交差点で、ダンプカーとトラックが追突している。二台とも前の運転席がつぶれていて、消防隊の人が中をのぞき込んでいた。その周りや歩道には沢山の人が立ち止まって、救助する様子を見ている。
僕も近くまでいった。心臓の鼓動が早くなっていく。つぶれたダンプのドアが機械を使ってはずされ、消防隊員が二人がかりで大きなドアを持ち、アスファルトにもれた真っ黒いオイルの上を歩いてどけた。
救急隊の一人が運転席の中をしばらく慎重に観察したあと、三人がかりで運転手の人を外に出し、すばやく担架に乗せていった。
集まった人たちは、もう一台のトラックから救助する作業を見ている。でも僕は、その場から離れた。こんな大きな事故を見たのは初めてで、頭が真っ白になった。
そして友達の家に行くのも忘れて、ただただ歩いた。
次の日の夕方、僕が家に帰ると、パートから帰ってきたお母さんが慌ててかけよってきた。
「きのうの事故、貴広くんのお父さんだったみたい!」
きのう見た事故の話を、お母さんにだけいっていた。きょう貴広が学校を休んだことや、「おやじはダンプにのってんだ」っていってたこと。それに笹岡先生の表情がきょうずっと暗い感じだったことなんかが、いっせいに頭のなかを駆けめぐった。
「貴広くんのお父さんも相手も、重体だけど命に別条はないって」
つぶれた運転席から助け出された人が貴広のお父さんだったなんて、信じられなかった。お母さんは出て行ってしまって、お父さん一人で貴広を育てていたから、これからどうなってしまうんだろう。
翌日には、貴広が学校にきた。友達とふつうにしゃべっている。
でも僕は、なんて話しかけていいのか分からなかった。
体育の時間になって、貴広が通り過ぎるとき僕に声をかけた。
「なんか、おれをさけてねーか」
べつに……、といいかけたけど、僕は話し出していた。
「ダンプの事故を見ちゃったんだ、貴広のお父さんが運ばれていくのを。お父さんの怪我、大丈夫なの?」
貴広は立ち止まった。
「ああ、そうだったのか。三ヶ月くらい入院しないとなんだけど、大丈夫だってさ」
「そっか、よかったー」
「事故のあと、家に突然かあちゃんが帰ってきちゃってさ、うざいのなんのってねーよ」
そういった貴広が、うれしそうに見えた。
そのあと僕は貴広とならんで走って、校庭にむかった。
みんなで退職したあとの先生の家に行く計画は、いくつもの楽しいアイデアがごっちゃ混ぜになって、完成した。
お父さんの事故のあとも熱心に通っていた空手教室を、三月になって貴広はやめた。そんなウワサを聞いた。事故のことでお金が大変なのだろうかと思ったけど、そのことを聞こうとは思わなかった。そして、卒業式も終わった。